しばらく前にノラ・ジョーンズとアヌーシュカ・シャンカールの異母姉妹が共演している動画をYouTubeで見たら、その後お勧めとしてインド音楽系の動画がいろいろ上がるようになった。いくつか見て気になったのが、この動画。
最初は「インド版のベビーメタル?」くらいの好奇心で見始め、気になって調べるうちに、彼女たちはいつも3人という訳でもなく南インドの古典舞踊バラタナティヤムの学校のメンバーらしいこと、特にまん中のHarinie Jeevithaという子がそのジャンルのスターとして活躍していることを知った。名前の最後のthaは英語のthと同じなのだろうが、インタビュー動画など見るとはっきりハリニー・ジーヴィタ、と聞こえる。
インド版TEDのようなところでも紹介されている。
専門的なことはよく分からないが、技術的には完璧と思われるくらい揺るぎがないし、表情もチャーミング。人気があるのも当然だ。
バラタナティヤムはもともとヒンズー寺院で行われていた宗教的な舞踊だったが、Wikipediaによるとイギリスの支配下で禁止され、それに対する反発から寺院の外に広まることになったらしい。禁止されたのが新たな発展のきっかけとなり、そのおかげで私なども知ることができた訳である。最初の動画を上げているSridevi Nrithyalayaという学校はバラタナティヤム復興の中心で、そのトップスターがハリニー・ジーヴィタらしい。
最初の動画が気になった理由の一つは、タイトル中のPopular songという言葉がどういう意味で使われているのだろう、ということだったのだが、恐らく宗教的でも古典的なレパートリーでもない、ということの強調なのだろう。
二つめの動画で興味深いのは音楽で、最初はリズミカルな伴奏に乗って女声がラップのように語り、次いで0’50″くらいから男性の歌、それが止むと2’50″くらいからまたリズミカルな女声になるのだが、これがどう聞いても太鼓(おそらく両面太鼓ムリガンダム?)の口三味線ならぬ口太鼓(旋律の階名唱法のような太鼓のシラブル)なのだ。もう10年以上前だろうか、たまたま中古で売られていたインドのポピュラーソングのCDを聴いていたら途中から突然階名(サリガマパダニ)で歌いだした時と同じ驚きだった。この口太鼓はソルカットゥSolkattuというそうで、太鼓が鳴らしている音と完全に同期して声を出している。実は舞踊と音楽が一体となったバラタナティヤムの全体を仕切っているのがこの女性で、ナットゥヴァンガムnattuvangamといい、音楽全体の指揮者であり舞踊の振付師でもあるという。
12月の講演では即興主体の音楽の例としてインド古典音楽の例を挙げたり、当「おぼえがき」にも知ったかのメモを残したりしたが、インド音楽について何も知らないことを思い知った次第。あそこで例に出したのはあくまで北インドの器楽、と限定すべきだったのかもしれない。
日本にもバラタナティヤムの演者はいらっしゃるようで、神戸で教室を開かれているモガリ真奈美さんという方のホームページにはバラタナティヤムの分かりやすい解説もある。